腹腔鏡下大腸(結腸・直腸)切除術
下部消化管(大腸)
腹腔鏡下大腸(結腸・直腸)切除術
大腸は、お腹の中を右下から時計回りにほぼ一周する結腸と、骨盤内を肛門に向かって下降する直腸に分類されます。結腸はさらに、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に分類されます。
早期の大腸がん(粘膜内、粘膜下層浸潤軽度と診断されたもの)であれば、手術ではなく、肛門から大腸の中に挿入する大腸内視鏡(大腸カメラや大腸ファイバーとも呼ばれています)を用いて、がんを含んだ大腸の壁の一部のみを切除します。これでうまく切除されれば治療は完了します。しかし、大腸がんは無症状であることが多く、早期でももう少し深くまで広がった状態や、進行した状態(いわゆる進行大腸癌)で発見されることが多いのも現状です。そのような場合、手術によってがんができている部位を含む10cm~数10cmの長さの大腸とその周囲のリンパ節を切除する必要があります。
大腸がんに対する腹腔鏡手術はかなり普及してきましたが、お腹を大きく開いて行う開腹手術と比較すると、やはり高い技術が必要とされますので、外科医の技術によって、確実性や安全性に差があるのも事実です。当センターでは国内トップレベルの経験数を有する大腸がんの専門医が、安全かつ確実な腹腔鏡下大腸切除術を行っています。
大腸がん手術では、人工肛門が必要になることが心配な患者さんも多いと思います。結腸がんに対する手術では腸閉塞や穿孔といった急を要する状態でない限り人工肛門は必要ありません。当センターでは、直腸がんに対する手術の際も、がんを残さずに肛門を残すことが可能と判断されれば、患者さんのご希望に沿って肛門を残す手術を選択しています。その場合は、肛門の状態が安定するまで一時的に人工肛門を使用することがあります。
下部消化管(大腸)
腹腔鏡下直腸切除術
大腸の中でもっとも肛門に近い部位(肛門から約15cm)が直腸です。狭い骨盤内に存在し、男性では前立腺、精嚢腺、女性では子宮、膣といった臓器が近接しています。
そのため結腸癌手術と比較すると、手術の難易度はさらに高くなります。当センターでは直腸がんに対しても腹腔鏡手術が可能です。
1. 排尿機能や性機能を温存する手術
骨盤内の直腸周囲には、排尿機能、性機能をつかさどる自律神経が直腸に絡みつくように存在しています。直腸の手術の際にこの自律神経を損傷すると、手術後に排尿障害や性機能障害が発生します。損傷を避けるためには出血の少ない精緻な手術がとても重要です。当センターでは、豊富な経験と高い技術を駆使して、がんを確実に切除しつつ、自律神経を温存する手術を腹腔鏡下でも積極的に行っています。
2. 肛門を温存する手術
直腸がんの中でも肛門に近い部位にがんができた場合、以前は直腸とともに肛門を完全に切除して、永久人工肛門になる手術が施行されていました。当センターでは、がんを確実に切除しつつ、肛門括約筋(肛門をしめる筋肉)を温存することで肛門を残す手術を腹腔鏡下でも積極的に行っています。この手術では同時に人工肛門を作って、肛門の状態が安定するまでの間使用します。数か月後に肛門が適切に機能していることを確認して、人工肛門を閉鎖する手術を行います。ただし、肛門括約筋の機能が十分でない場合は便失禁をしやすくなります。また、肛門を完全に切除する場合と比較すると、局所再発のリスクは少し高くなります。
直腸がん手術は、がんをしっかりと切除することと、排尿機能、性機能、肛門機能を温存することを両立させることが求められる難しい手術です。その適切なバランスは、個々の患者さんによって違いますので、それぞれの患者さんにあった最適な治療を提供することが重要です。直腸がんの手術についてはぜひ一度当センターにご相談ください。
下部消化管(大腸)
腹腔鏡下・ロボット支援下直腸切除術
直腸は狭い骨盤内に存在し、男性では前立腺、精嚢腺、女性では子宮、膣といった臓器が近接しています。直腸の切除は従来の腹腔鏡手術でも十分に可能でしたが、手術器具の動作制限のために繊細な操作が困難な場合があります。こうした欠点を克服するために開発された手術支援ロボット(ダ・ヴィンチ)は、お腹の中で器具の先端を自在に曲げることができるため、動作制限が極めて少なくなりました。その登場によって腹腔鏡手術よりも精緻ながんの切除が可能となり、根治性の向上とともにより高いレベルでの肛門機能・排尿機能・性機能の温存に寄与することが期待されています。
スタッフ紹介
下部消化管(大腸)松本 寛(副院長 兼 消化器外科主任部長 兼 医療安全管理室室長 兼 消化器がん腹腔鏡・ロボット手術センター副センター長)
奈良県立医科大学卒業後、奈良県立医科大学付属病院外科、服部記念病院外科で勤務。がん・感染症センター都立駒込病院大腸外科部長を経て当院へ勤務。
日本外科学会専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本がん治療認定医機構暫定教育医、認定医、da Vinci surgical system術者認定、日本ロボット外科学会国内B級、奈良県立医科大学医学博士。
大腸癌に対する腹腔鏡手術、ロボット支援下手術の経験を多数持ち、国内の施設で講演、実技指導を行う。また化学療法についても専門的に行っており、診断から治療の全てにおいて、個々の患者さんにあった医療を提供することに日々努力している。