臨床倫理委員会
臨床倫理委員会要綱
日常の診療・看護等の医療行為の実施において、倫理的判断を必要とする事態が生じた場合、通常は、主治医等が、患者本人やその家族と話し合い、医師を中心とする複数の専門職の医療従事者から構成される医療・ケアチーム(医師、看護師、ケースワーカーなどから構成)によって判断を行っている。
しかし、別紙に示す事例のように、その内容によっては、医療・ケアチーム内で判断が行いがたい場合もあり得る。このような場合、医療・ケアチームから事情を聴取し、事態に対する解決策を提示し、助言する機関が必要となる。
そこで、このような事態において、医療・ケアチームの判断に資するために、医療・ケアチームに解決策の提示や助言を行う機関として、臨床倫理委員会を設ける。尚、同会則は日本医師会及び日本看護協会の倫理要綱に遵守するものである。
第1条 趣旨
新東京病院における医療行為全般において,医療・ケアチームのみでは判断しがたい倫理的問題が生じた場合に,その解決を図ることを目的として定めたものである。
第2条 臨床倫理委員会設置
倫理的問題の解決策を提示し、医療・ケアチームの判断に資する助言を行うため当院の臨床委員会より独立し、より医療判断の質に特化した内容を検討する目的に、2023年9月に独立した組織とし、臨床倫理委員会を設置する。
【臨床倫理委員会で検討される内容】
- 終末期における医療の実施に関すること
- 心肺蘇生をしない(DNAR = Do Not Attempt Resuscitation)について
- 不可逆的昏睡状態における延命治療の可否
- 輸血拒否に関すること
- 告知に関すること
- 医療行為全般に係る患者の基本的権利の擁護について
- 臓器移植に関すること
第3条 臨床倫理委員会の構成
委員の構成員は、次に掲げる委員をもって組織する。
【常任委員】
委員長 | 1名 | 河野 匡 副院長 |
---|---|---|
副委員長 | 1名 | 松岡 聡志 |
1名 | 増田 洋子 | |
委員 | 1名 | 岡部 靖子 |
事務局 | 1名 | 古賀 祥基 |
その他委員長が必要と認めた者若干名 |
第4条 臨床倫理の開催・成立
- 医療・ケアチームより要請があった場合、委員長が必要と認めた者に出席を任命する。
医師1名 看護師1名(当該部署を含めない)
その他委員長が必要と判断する人員。
(当該部署の医師・看護師・MSW・薬剤師・事務員・外部委員) - 委員長は必要に応じて、当該患者の医療・ケアチームが必要と認めた者の出席を求め、討議に加わることができる。
第5条 審議手続き・記録
- 委員会の判断を要請する者は、別途定める様式にて所要事項を記載の上、委員会長に審議を要請しなければならない。
- 委員会で討議した内容は、要請者がカルテに倫理ケースカンファレンスとして、討議したメンバーの氏名と討議内容の要旨を記載する。
第6条 院長への承認と倫理委員会への報告
- 委員会での検討結果は、委員長が速やかに病院長に報告すること。
第7条 本要綱の閲覧
閲覧者及び家族等に対して公開し、院内の適切な場所で容易に閲覧できるようにしなければならない。
第8条 事務局
- 委員会の事務を設置する
- 年報として活動内容を院長に報告する
- 事務局は、会議事録を作成し、記録として保存する
- 議事録の保管期間は5年間とする
臨床倫理の基本指針
当院は基本的人権、患者の権利、医の倫理に基づき、患者に安全な医療を適切かつ十分に提供するため、臨床における倫理的な問題に関する方針(臨床倫理指針)を定めています。
原則
- 患者の生命の尊厳と人格を尊重し最善の利益が得られるように安全で良質な医療を提供するように努めます。
- 患者の立場に立った対応を心掛け、良好な信頼関係を築いて患者様と共に医療を行います。
- 患者の背景や病気の性質にかかわらず、公正で公平な医療を提供します。
- 患者のプライバシーを尊重し個人情報の保護と守秘義務を徹底します。
- 診療については関連法規、診療指針、ガイドラインを尊重し、根拠に基づいた医療を提供し、医療の質、診療行為の妥当性を検証します。
- 医療事故、医療感染の防止に努め、患者に最小のリスクで最大の利益が得られるようにします。
- 医療人としての責務を自覚し自己研鑽を行って医療の知識と技術の向上に努め医学の進歩に貢献します。
- 職員が他の職員の専門性を尊重して良質な協力関係を築いてより良い医療の提供に向けてチーム医療を行います。
- 地域医療における役割を果たし、地域の医療福祉関係施設を協力して地域連携の推進を行います。
- 医療情報、診療録を適正に管理し、規則に従って開示を行います。
- 十分な説明と患者の理解と選択に基づく医療を進めます。
- 患者の人生が豊かになるような意思を尊重します。
- 臨床倫理委員会で検討した方針を尊重します。
臨床倫理問題への対応方針
1. 真実の開示
患者に対しては、ご本人が望まない場合や、その後の治療の妨げになるなどの正当な理由がある場合を除き、病名や診断内容について原則として正確な情報を提供します。
2. 個人情報保護について
患者の配慮すべき個人情報・個人識別符号等を含めた個人情報・データの管理・取り扱いについては「個人情報保護法」「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(厚生労働省)」等の法令・指針を遵守します。
3. 説明と同意(インフォームドコンセント)
患者は、医療者から十分な説明と情報提供を受けた上で、治療・検査・その他の医療行為について自らの意思と価値観に基づいて選択・決定することや、拒否する権利があります。これから行おうとする検査や治療については、患者が治療の方針や方法を自ら選択・決定・拒否できるように、病名、治療(検査)目的、内容、合併症・副作用等のリスク、代替可能な治療(検査)法、何もしない場合に考えられる結果、予後の見通しなどを、新東京病院「インフォームド・コンセント指針」に従い、患者に十分な情報を提供し、同意を得た上で医療を提供します。なお、拒否をしたとしても一切の不利益を被ることはありません。
4. セカンドオピニオンについて
患者には、納得した治療を受けるために、主治医以外の医師からの意見(セカンドオピニオン)を求める権利があります。他の医療機関や医師の診察や意見を希望される場合には、必要な資料を提供します。その場合にも、一切の不利益を被ることはありません。
5. 意思が確認できない(自己判断不能な場合)の対応
意識不明や判断能力のない患者様においては、ご家族等適切な代理人に十分な説明を行い、同意を得て治療に必要な判断と決定を行います。但し、緊急事態で生命に問題があり、且つ家族等に連絡がつかない場合は、医療チームの判断により緊急治療を行います。
適切な代理人も不在の場合は、医療・ケアチームで協議のうえ、患者にとって最善の利益となる治療方法を優先し、判断が困難な場合には、臨床倫理委員会で検討して判断します。
6. 判断能力があるが有益な検査・治療に拒否される場合の対応
検査・治療・入院などの必要性および利益と実施しない場合の負担と不利益について、患者に十分な説明を行っても患者が医療行為を拒否した場合は、治療拒否の理由を十分把握し、治療による利益と不利益を十分に説明した上で、患者の望まない治療を拒否できる権利を認めます。
必要に応じて臨床倫理委員会等にて審議し、その決定に従います。但し、感染症等で治療拒否により第三者に危害が及ぶ可能性がある場合には、治療の拒否は制限される場合があります。
7. 輸血を拒否される患者への対応
宗教上の理由などから輸血を拒否される患者には、人格権に基づく権利と理解・尊重し、当院の「輸血拒否に関する新東京病院の基本方針」に従い、患者・家族に対して検査・治療内容、特に輸血療法の副作用を十分に説明し、救命処置としての輸血療法の必要性に理解を求めます。それでも輸血を拒否される患者には、無輸血の立場をとります。
8. 身体行動制限(身体拘束)について
新東京病院の「身体拘束に関する基準」および「身体拘束予防ガイドライン(日本看護倫理学会)」「身体拘束ゼロへの手引き 高齢者ケアにかかわるすべての人に(厚生労働省)」等に従います。
身体拘束は人間としての尊厳を損なう危険性を有しており、法律でも禁止されていることから、治療上やむを得ない場合の身体行動制限(身体拘束)は、医師の指示のもと、多職種で「身体拘束の三原則(切迫性・非代替性・一時性)」に基づいて適応・必要性を検討し、必要最軽・最短期間で慎重に、患者や家族などに説明し,同意を得て行います。また,身体抑制中は頻回に状態を観察し,身体抑制は必要最低限かつ最短期間とします。(詳細は手順参照)
9. 終末期の医療について
終末期の医療・ケアについては、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省)」や新東京病院の「終末期に対する基本的対応」や「緩和ケアマニュアル」に従い、医療行為の妥当性を十分に考慮し,患者さまや家族と相談のうえ、患者の意思に基づいた医療を行います。また、可能な限り、疼痛やその他の不快な症状を緩和し、精神的・社会的援助も含めた総合的な医療・ケアを行います。
10. 心肺蘇生不要(DNAR)の指示について
心肺蘇生法(CPR)の有効性について、終末期・老衰・救命不能または意識回復が見込めない場合には、患者やご家族(代理人)に対して十分な説明をしたうえで、心肺蘇生法を行わないことに同意された場合は、その意思を尊重します。但し、いかなる場合も積極的安楽死や自殺幇助は認めません。
DNAR(蘇生不要)、治療の中止・差し控え等、生命の尊厳に関する問題や医療行為の妥当性に関する問題については、多職種で検討し、患者にとって最善だと思われる治療方針をチームで決定します。(詳細は手順書を参照)
11. 虐待についての対応
小児、高齢者などへの虐待が疑われた場合には、新東京病院の「虐待に対する対応マニュアル」に基づいて、警察へ届け出るか否かを検討します。しかし、その前に緊急で治療などが必要な場合は、患者に判断能力・意思決定能力なければ、被疑者の疑いがある親や親族に病状を説明し、同意を得て医療行為を実施します。
12. 臨床研究・治験・高難度新規医療技術導入・保険適応外治療
ヘルシンキ宣言および「臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)」等の医療・医学研究の法令・各指針を遵守し、研究協力者(被験者)の尊厳と人権が守られているか、また、研究の科学的妥当性について、臨床研究・高難度新規医療技術導入・保険適用外治療は倫理委員会、治験は治験審査委員会において審議し、その決定に従います。
また保険適用が認められていないが患者に有益と考えられる治療法を導入する場合は、まず当該部署で倫理面と医療安全面から十分に検討し、場合によっては臨床倫理委員会で検討しその結果を尊重して行います。
13. 臓器提供について
当院は臓器提供施設となっていないため、臓器提供は行いません。ただし患者または家族から臓器提供の意思表示があった場合は、法令を遵守して(社)日本臓器移植ネットワークと連携し、その指導・指示のもと、できる限り対応します。
14. 性的少数派(LGBTQ)についての対応
患者様一人ひとりに対して性的指向及び政治人に配慮し、全職員で患者さまのプライバシー保護に努めます。診療に必要な問診や診察は、その必要性を十分に説明し、患者さまにご理解いただいた上で行います。また療養環境については、患者さまの意向を伺い、適宜相談して、できるだけ満足していただけるように調整を行います。
15. その他の倫理的問題について
その他の臨床倫理的問題については、臨床倫理委員会で審議し、その決定に従います。