腹腔鏡下食道裂孔ヘルニア修復術
食道裂孔ヘルニアとは?
食道は口から胃につながる食べ物の通り道ですが、胸部(むね)を通過したあと、胸部と腹部(おなか)を隔てている横隔膜にあるあな(食道裂孔)を通って腹部に入って胃につながっています。
この食道裂孔から、本来おなかの中に納まっていなくてはいけない胃の一部がむねのほうへ脱出した状態を、食道裂孔ヘルニアと呼びます。

図のようにいくつかのタイプがありますが、食道と胃の境界ごとむねのなかに脱出する「滑脱型裂孔ヘルニア」が最も多くみられます(Type I)。食道と胃の境界の部分以外の胃が脱出するタイプを「傍食道型裂孔ヘルニア」といい(Type II, III, IV)、脱出した部分が血流不良に陥ったり、捻れてしまい食事が通らなくなったりすることがあり、手術的な修復が必要となります。脱出を繰り返すうちに食道裂孔が大きくなってくると、大腸や脾臓、膵臓など他の臓器も一緒に脱出するようになってくることもあります。

食道裂孔ヘルニアの症状
食道裂孔ヘルニアがあることで胃から食道への逆流防止機構が破綻するため、逆流性食道炎を起こしやすくなります。逆流性食道炎の症状は多岐にわたりますが、胸やけ、胸痛、のどの違和感、痛み、咳、声がれなどがよくみられます。ヘルニアによる脱出が大きくなると、胃の捻れによる食事のつかえ感や嘔吐などの症状や、脱出臓器が肺を圧迫して息苦しさが出ることもあります。胃が完全に捻転して強い痛みを伴う場合は放置すると胃が壊死してしまい致命的になりますので、緊急手術が必要になります。
食道裂孔ヘルニアの原因
食道裂孔ヘルニアは、肥満、慢性の咳疾患などによりおなかの圧力が高くなることが原因で起こります。加齢により食道裂孔と食道を固定している組織が弱くなることや、背中が曲がったりしてくることも食道裂孔ヘルニアを起こす要因です。
食道裂孔ヘルニアは治療が必要?
「滑脱型裂孔ヘルニア」で症状がない場合は治療の必要はありません。逆流による症状がみられる場合は、胃酸をおさえる薬(プロトンポンプ阻害薬)による治療を行います。寝るときに頭を高くしてやすむ、食後すぐに横にならない、1回の食事量を減らす、体重を落とすなど、生活習慣の改善も症状改善に役立つとされています。
一方、「傍食道型裂孔ヘルニア」「混合型裂孔ヘルニア」で症状がある場合は、胃がねじれたり、はまり込んで外れなくなったりして重症化することを防ぐために手術で治すことが望ましいとされています。「多臓器脱出型」の場合もはまり込んだ腸の通りがわるくなったり、ねじれたりすることを防ぐためには手術が必要です。いずれの場合も手術は殆どの場合で小さい傷で行う腹腔鏡手術で可能ですが、実際に手術を受けて頂くのが良いかどうかは、他の病気の有無などをよくお聞きし、手術の危険性も考慮したうえで相談させて頂くことになります。手術をうけるかどうか悩んでいる方は、まずは受診の上ご相談ください。
食道裂孔ヘルニアの手術について
食道裂孔ヘルニアの手術は、以下のような手順で行います。
- 脱出した胃をおなかの中の正しい位置に引き戻します。
- 大きくなった食道裂孔を小さく縫い縮めます。場合によって補強材(メッシュ)で補強します。
- 食道への逆流を防止するために食道に胃の上部をまきつけます(逆流防止術)。
殆どの場合、小さな傷からカメラや手術器具をいれて行う腹腔鏡手術でからだの負担少なく手術を受けて頂くことができます。

手術の合併症について
術後には、再出血や、創部や腹腔内の感染症など、手術で操作した部位に関わる合併症が生じることがあります。また食道裂孔を縫い縮めた部分が破綻したり、胃の固定が外れたりすることにより裂孔ヘルニアが再発することがまれにあります。またそれとは別に全身麻酔で手術を行うことにより、血栓症や心臓や肺などに負担がかかり呼吸器合併症(肺炎など)や循環器合併症(狭心症、不整脈など)といった直接おなかとは関係のない合併症が生じることもありますが、腹腔鏡手術により体の負担が軽くなり合併症も少なくなっています。
手術後の経過について
術後なるべく早く離床をし、翌日にレントゲンで問題がなければ水分の摂取を始めます。術後2日目以降にヘルニア修復部が破たんしていないことを確認してから、流動食や粥食を開始します。その後、特に問題なければ1週間から2週間前後で退院できます。
食道裂孔ヘルニアを修復することにより、ヘルニアによるつかえ感や痛みなどの症状の改善が期待できます。ヘルニアを起こしていた胃は逆流防止機構が働かなくなっており、逆流性食道炎を併発していることが多いですが、手術ではヘルニアを治すと同時に、逆流性食道炎の防止手術も行いますので、逆流性食道炎による症状の改善も期待できます。
術後の早い時期には、逆流防止術のために入口がきつくなり食事をとる際につかえ感や嚥下困難感が生じたりすることがありますが、その場合も術後1か月程度で軽快し、次第に違和感がなくなってきます。術後しばらくは手術部位に負荷がかからないように柔らかい形態のお食事をとっていただきます。