重度の大動脈弁狭窄症の患者さんで、
外科手術が困難とされていた方に対する
新しい治療法です。
胸を開かず、また、心臓を止めることなく、「人工弁」を患者さんの心臓に装着することができる治療法です。
2002年にヨーロッパで始められ、世界では ヨーロッパと北米を中心に、
多くの患者さんが治療を受けられています。
日本においても、2010年から2012年にかけて臨床治験が行われ、
2013年10月より 保険償還が得られたことで TAVIによる治療が可能となり、
これまでに国内でも6万人以上の患者さんが治療を受けられています。
当院も施設認定を取得し、2013年12月より治療を開始しています。
重症の「大動脈弁狭窄症」が治療の対象です。
左心室の出口(上行大動脈の起始部)にあり、通常は右冠尖、左冠尖、無冠尖と呼ばれる三つの弁尖から成り立っています。
心臓の中にある弁のうち、酸素を含んだ血液を全身へと送り出すのに重要な役割を果たします。
左心室が収縮すると同時に開いて血液を大動脈へ送り出し、左心室が拡張すると同時に閉じて血液の逆流を防止しています。
動脈硬化が進行して石灰化などで大動脈弁が硬くなり、
十分に開閉しなくなってしまいます。
大動脈弁狭窄症は自覚症状に乏しく、心雑音などをきっかけに診断されることも多い疾患です。
進行すると、息切れ・動悸、倦怠感・易疲労感、胸痛・胸苦、失神などの症状が出現し、
突然死に至ることもあります。
一般的に症状出現と生命予後の関係は、
胸部症状が現れると5年、失神が現れると3年、心不全を来すようになると2年と言われています。
治療方法 | 経過観察または薬物療法 | 外科的治療 |
PTAV (経皮的大動脈弁形成術) BAV (バルーン大動脈弁形成術) |
TAVI (経カテーテル大動脈弁 植え込み術) |
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重症度 | 軽度~中等度 | 重度 | 重度 | 重度 |
治療内容 |
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メリット |
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デメリット |
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これまで、 「大動脈弁狭窄症」には、心臓外科手術(人工弁置換術)が効果的な治療とされていました。
しかし、心臓外科手術が必要となった患者さんにおいて、
手術リスクが高い場合(高齢の方、心臓の手術を過去に行った事がある方、全身状態が良くない方、体力の低下を認める方)、手術による治療を断念するケースが少なくありませんでした。
このような、心臓外科手術が困難な患者さんがTAVI治療の対象となります。
TAVIは胸を大きく切開することなく、また従来の外科的弁置換術のように心臓を停止させる必要がない(人工心肺を使用しない)ことから、患者さんの身体への負担が少ないのが特徴です。
高齢者や心臓以外の合併症のため治療が行えないようなハイリスクの患者さんでも、短時間で施行できます。
基本的に大きく切開することがありませんので、輸血を少量または無しでも施行することができます。
TAVIは術後3~4日で退院が可能となり、術前を含め1週間程度の入院期間で治療が完了します。
TAVIは根治術ですので、大動脈弁機能は大幅に改善しており、治療前には出来なかった色々な活動が可能になります。
手術時間と入院期間が短いため、比較的早い社会復帰が期待できます。
侵襲が低い治療と言っても、対象となる患者さまによっては死亡や合併症の危険がないわけではありません。日本におけるTAVI後の死亡率(術後30日以内)は約2%です。以下のような合併症があります。
TAVIは、石灰化などで硬くなってしまった大動脈弁を押し広げる治療法です。 病変部でのバルーン拡張などにより、大動脈弁が破裂、または心室に穿孔(心臓に穴があくこと)し出血することがあります。
大動脈弁を拡張後に、冠動脈が閉塞して血流が途絶えてしまうことがあります。
治療の最中に不整脈(心室細動、洞不全症候群、完全房室ブロックなど)が出現し、電気的除細動またはペースメーカーの挿入が必要となることがあります。
人工弁周囲に逆流が残存する場合があります。
手術終了後、カテーテルやシースを抜去した際に血腫や仮性動脈瘤が生じることがあります。
新東京病院では、出来限り開胸せず、体への負担を抑える事に力を尽くしてきました。
その為、日本でTAVIが導入される前から海外で学び、導入されるとすぐにTAVI治療を開始しました。
最先端の治療を学んできた経験を活かし、海外の最先端施設と同水準の治療を実現させています。
当初はEdwards Lifesciences社の Sapien XT という
いわゆる「バルン拡張型」の人工弁しかありませんでしたが、
このタイプの弁が苦手とする症例(大動脈弁に偏在性高度石灰化がある、大動脈弁から左室流出路に高度石灰化が連続している、先天性2尖弁など)が存在しました。
2016年より、新しいタイプのTAVI弁(Medtronic 社のCoreValve)が国内で使用可能となりました。
CoreValveは「自己拡張型」で、患者さんの体外で弁を冷却して変形させ、デリバリーシース内に装填し、
体内(体温)で展開させると自己拡張し、大動脈弁内に固定するものです。
このCoreValveであれば、バルン拡張型が苦手とする形態の大動脈弁であっても
TAVIを比較的安全に施行することができるようになりました。
現在、Sapien XT は Sapien 3 に、CoreValve は Evolut FX に改良されています。
さらに、国内3番目となるAbbott社のNavitor(自己拡張型)も使用可能となりました。
この3つを適切に選択する事により、現在は全ての患者さんに対応する事ができます。
当院TAVI執刀の長沼医師は、Edwards Lifesciences社、Medtronic社の
プロクター(指導医)の資格を有しております。
プロクターの仕事には、他施設での技術的・学術的指導や、治療難易度の高い症例についての術前相談などがあります。
TAVIには一般的に、大腿動脈アプローチ、心尖部アプローチ、
直接大動脈アプローチ、鎖骨下動脈アプローチがあり、
海外ではより体への負担の少ない大腿動脈アプローチが推奨されていますが、
日本ではまだまだ非大腿部アプローチが数多く行われているのが現状です。
当院では、初期のころより大腿動脈アプローチが体にやさしいと考えており積極的に行ってきました。
現在はほぼ全症例で行えるようになっています。
大腿動脈 アプローチ |
非大腿部 アプローチ |
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心尖部 アプローチ |
直接大動脈 アプローチ |
鎖骨下動脈 アプローチ |
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足の付け根からカテーテルを通します | 胸部を少し切開して、左心室の心尖部という場所からカテーテルを通します |
胸部を少し切開して、 上行大動脈からカテーテルを通します |
胸部を少し切開して、 鎖骨下動脈からカテーテルを通します |
大腿動脈アプローチは、未だに国内においては外科医が4~5センチ程切開し、カテーテルを通す手法が広く行われています。
当院では、2015年秋から、全く切開せずに止血デバイスを使用する「バンクチャー法」に変更し、
さらに患者さんの体への負担を軽減するようにしています。
さらに、石灰化や狭窄を起こした血管でも、反対の足から通したワイヤーやバルーンで処理を行うクロスオーバーテクニック
と呼ばれる手法を用いる事で、パンクチャー法による大腿動脈アプローチを可能にしました。
クロスオーバーテクニックとパンクチャー法を併用して大腿動脈アプローチを実施。
右大腿穿刺部の傷は3~4ミリ程度。
これはTAVI2日後の写真で、この後傷が治癒することでさらに目立たなくなります。
※ 新東京病院では、患者さんにより合った施術を行っています。
大動脈弁疾患に対して生体弁を使用して外科的弁置換術を施行後、おおよそ10~15年経つと生体弁が劣化してきます。生体弁が、狭窄(弁の開放が悪く、血液が通りにくくなる)や逆流(弁の閉鎖が不完全のため、逆方向に血液が漏れてしまう)を来たして、正常に機能しなくなった状態を「生体弁機能不全」と言います。これまでは、この生体弁機能不全に対しては、全身麻酔+人工心肺補助下に二度目の外科的開胸手術を行うしか選択肢がありませんでした。しかしながら、高齢で心臓以外にも持病がある患者様は、二度目の開胸手術はリスクが高く、経過観察せざるを得ませんでした。弁機能不全による心不全(酸素が下がって息が苦しくなったり、体が浮腫んだりする)は、薬物治療ではコントロールが難しいことが知られています。
日本への導入が遅れましたが、2018年7月から治療経験の豊富な施設に限定して、外科的生体弁機能不全に対するTAVIが認可されました。TAV in SAVと呼ばれる特殊なTAVIです。通常のTAVIと同様の手順で、基本的には開胸することなく治療が可能です。当院では、全身麻酔ではなく局所麻酔+鎮静(治療中、少し眠たくした状態)をルーチンとしており、海外の最先端施設と同等の超低侵襲TAVIを提供してきました。心拍動下に(心臓を止めずに)、機能が悪くなった外科生体弁の内側に新たにカテーテル弁(Medtronic社Evolut-R)を装着します。二度目の開胸を避けられることで、術後の早期離床が可能です。ずっと待ち望まれていた治療法であり、日本の心臓の悪い患者様にとって朗報であることは間違いありません。
麻酔科医の協力のもとで、全身麻酔下ではなく局部麻酔下でのTAVIを可能にしています。
全身麻酔では、呼吸や血圧、心臓の動きに大きな影響を与える強い麻酔薬を使用したり、器械を使って口から気管まで長い管を通したうえで人工呼吸をしたりしますので、それらに伴う様々な危険があります。特に、TAVIをしなければならないほどの重症大動脈弁狭窄症の患者さんは、全身麻酔薬による影響を強く受けて血圧が非常に下がったりしますので、全身麻酔そのものが大きなリスクとなります。
しかし局所麻酔では、強い薬剤を使ったり人工呼吸をしたりする必要がありませんので、患者さんの体への負担は非常に小さく、より安全です。局所麻酔でも、鎮静といって比較的弱い薬を麻酔科医が点滴から投与しますので、患者さんは手術台に横になったらまもなく寝てしまい、そのまま操作が終了するまで、はっきりと目が覚めることはありません。操作が終わるころに鎮静の効果がなくなるよう調整しますので、終了後手術室で速やかに目が覚め、いつも通りに話すことができます。患者さんは「いつの間に終わったのだろう」とよくおっしゃいます。
局所麻酔でのTAVIは、操作をする医師はもちろん、麻酔科医・看護師・臨床工学技師など、関わる全員がTAVIに熟練しており、安全かつ速やかに施行できることが絶対条件ですので、限られた施設でしか行うことができません。
TAVIを実施する患者さんにおいては、全例でリハビリテーションが提供されます。TAVIにより治療適応の幅が広がり、高齢でリスクのある患者さまにおいても治療ができるようになりました。その反面、高齢による体力低下や心不全症状等により、身体活動が低下している方も多く治療を受けられます。
リハビリテーション科では、術前の身体能力を十分に評価した上で、術後翌日よりリハビリテーションを開始します。入院中の身体能力や認知機能の維持はもちろんのこと、手術により少しでも身体活動が向上できるようサポートします。そのためには、心症状の改善のみならず身体機能を含めトータルにサポートすることが重要となります。
リハビリテーションプログラムについては、リハビリテーション科専門医が判断の上、理学療法士や作業療法士がそれぞれ専門的な立場から治療を提供します。全国的に有数の心臓リハビリテーション実績と365日リハビリテーションを提供できる充実した体制があるからこそ、TAVI実施にあたっても安心して入院生活を送っていただけます。入院中はもちろんのこと、必要に応じ新東京クリニックでの外来フォローも実施します。
これまでの病状および現在の症状などをうかがい、外来で心電図、胸部レントゲン、採血、心エコー検査などスクリーニング検査を行います。
重度大動脈弁狭窄症について全体的な説明をさせていただき、治療をご希望・ご検討される方は詳しい検査を追加で予定させていただきます。
CT検査、経食道心エコー検査などを追加し、全身状態を評価させていただきます。
治療に対するご本人・ご家族のご希望も伺います。
検査入院で施行した各種検査の結果を踏まえて、最適な治療方針の決定をハートチームで行います。
TAVI、外科的手術、保存的加療(薬物治療)のいずれがより良いか判断します。
万全の体制で治療に臨みます。一緒に頑張りましょう。
術後3時間で飲水、翌日朝から食事やリハビリテーションが始まります。
最短で3日での退院を目指します。
TAVI治療を担うグループを「ハートチーム」と呼びます。
当院では、TAVI日本導入前から準備を行っており、心臓内科医、心臓血管外科医を中心に、麻酔科医、臨床工学技士、放射線技師、臨床検査技師、理学・作業療法士、看護師 等、
総勢20名でハートチームを結成しています。
メンバーは、ヨーロッパやアメリカでの臨床留学経験者を中心に、その経験や知識を集結させ、
また、担当する診療科の垣根を越え、患者さんに合う最適な治療方法やタイミングを選択・提供しています。
治療をした患者さんが 元気に歩いて帰ることができるよう、スタッフ一同 協力して治療を行っています。
2年間のイタリア留学中に、世界のスーパーエキスパートから本当にたくさんのことを学ばせて頂きました。
現在の私の使命は、日本の患者様に海外の最先端施設に負けないような質の高い医療を提供することです。
弁膜症など心臓血管治療については、施設間で治療の質、経験数に大きな差があるのが現状です。
心臓病でお困りの患者様は、是非お気軽にご相談下さい。
日本でのTAVI治療は2013年10月より始まったばかりですが、十分に蓄積された欧米のデータを活かし、安定した治療成績を残せるよう努めています。
また、新しい情報へのアクセスを継続し、治療に関する情報を 全国に発信し続けていきます。
心臓疾患の治療に留まらず、術後の生活基盤の構築、術後のリハビリ、ケアを含め、包括的に患者さんの将来をサポートしていきたいと考えています。
弁膜症外来にて 診療相談を行っていますので、紹介状なしでも お気軽に受診・相談ください。
当院では、国内外での学会発表や英文誌への論文投稿も医師の務めと考えております。
2013年10月より、TAVI治療は健康保険適用となりました。
さらに、高額療養費制度をご利用いただくことで、費用の負担を軽減することができます。
70歳未満の方 | 約180万円(3割負担) |
70歳以上の方 |
約7万円(入院診療費:57,600円)
※ 所得により異なる場合があります |
70歳未満の方 | 所得区分 | 高額療養費制度を利用した場合 |
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年収約1,160万円以上の方 | 約32万円(入院診療費:約30万円) | |
年収約770~1,160万円以上の方 | 約24万円(入院診療費:約22万円) | |
年収約370~770万円の方 | 約16万円(入院診療費:約14万円) | |
年収 0~370万円の方 | 約7万円(入院診療費:57,600円) | |
住民税非課税の方 | 約5万円(入院診療費:35,400円) |
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●受付・診療時間
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